英国の建物には,いつ建てられたのかと表示してあるものが多い。たとえば,ケンブリッジ大学工学部のメインビルディングである Barker Building には AD 1952 と書かれている。日本の感覚だと「古い建物ですね」となるのだが,ケンブリッジの街には,1600年代以前のチューダー朝の建物もたくさんあるので,これはむしろ新しい部類に入る。

童話「3匹のこぶた」では,わらの家と木の家を建てた兄さん豚たちは,狼に家を壊されてしまったが,賢い末っ子 豚が建てた煉瓦の家だけは無事でした,めでたしめでたし,となるのだが,英国の家の多くは煉瓦でできているので,長持ちする。本当か嘘かわからないが,日本のような木と紙の家は,新築してから5年も経つとその価値はゼロになるという話も聞いた。とても話の上手な人から聞いたので,私自身はなんとなく信じて しまったのだが... しかしながら,外見は古いのだが,一歩建物の中に入れば,とても綺麗な最新式の設備に満ち溢れている,という光景も珍しくない。家 の中をどんどんリニューアルしていくのである。そして,英国人は内装や庭などの家の改造が大好きである。TV ではしょっちゅう DIY (Do It Yourself) の番組を放送している。

さて,われわれがケンブリッジの街で借りている家,この家はそれほど古くはないのだが,のキッチンを5月に全面 的に改修すると大家さんから言われた。キッチンが新しくなることはとても嬉しいので,私は楽しみにしていた。古いキッチンを撤去して,新しいものを運ん で,ちょっと配線すればよいのだろうから,1~2日で終わるだろうと,思っていたのである。しかし,これは私の大きな見込み違いであった。

まず,fitter (取り付け工)という職業の存在をはじめて知った。2人の fitter が下見に来て,キッチンの取り付けには1週間かかるといわれた。しかも最初の3日間は洗濯機も使えないと宣言された。日本では洗濯機は洗面所や風呂場のそ ばに置かれているが,英国では台所に洗濯機がある。海外で家の改造に立ち会う機会はめったにないので,私は時間を見つけて彼らの働き振りを見学した。彼ら は実によく働いた。朝の8時に家に来て,夕方の5時過ぎまで,せっせと仕事をした。日本でいえば彼らは技をもった大工さんであり,冷蔵庫,食器洗い機,洗濯機,オーブン,レンジ(日本ではガスレンジが多いが,英国では電気レンジが多い),シンク,食器棚などを組み立て,配置していった。また,壁のタイルを 一枚一枚の配色を考えて芸術的に仕上げていった。これは,日本人よりもよく働くな,と感心していた。あとからわかったのだが,彼らはたぶん例外だったので ある。

キッチンの電灯は彼らの守備範囲ではなかったようで,電灯については,来週 electrician (電気工)が取り付けに来る,といって帰っていった。日本であれば,キッチンを取り付けている1週間のうちに電灯もつけるべきで しょう,と言いたかったのだが,英語力のなさから,じゃあ来週待っているからね,としか言えなかった。電灯がまったくつかないので,せっかく綺麗になった キッチンで,電気スタンドをテーブルの上において当座をしのいだ。来週になれば,明るくなるのだから...

滞在して1ヶ月が過ぎており,英国では「待つこと」と「いらいらしないこと」が重要であることはうすうす感じて いた。そのため,electrician から1週間たっても連絡がなくても,こんなものかと思っていた。1週間遅れて electrician は電灯の取り付けにやってきた。しかし,これが遅れたことを謝りもしないのである。「ハロー」と元気よくやってきて,電灯を取り付け始めた。ほとんどの電灯をつけ終わったとき,部品が足りないのであと1本の電灯はつけられない,部品を取り寄せなければいけないので3日待ってほしいと言って,その日は帰って いった。1週間も待っているのだから,部品くらいちゃんと揃えてからやって来いよ,と心の中で思いながら,じゃあまたね,といって別れた。その後,また 10日間 electrician を待ち続けることになる。これを “British worker” と言うそうである。日本というせっかちで便利な国から来ると,なんと不便な,と思うのだが,英国人は寛容なのか,ほとんど怒らない。黙々と待っている。結局,キッチンの改装が終了したのは,作業を始めてからほぼ1ヶ月たった6月初旬であった。

5月にはセントラルヒーティングのための水のタンクも交換しなければいけなかったため,Plumber(水道屋,配管工:こんな単語は初耳で発音すらできなかった)のお世話にもなったが,この Plumber は幸いなことに British worker ではなく,よく働いてくれた。ちょっと手際は悪かったが... したがって,人にもよるのだろうが,たくさんの British worker が存在することも事実のようである。なんとものんびりした国である。なお,我が家ではこの5月を「修理月間」と呼んでいる。

キッチン改修の話には後日談がある。すべての作業が終わった6月中旬になって,食器洗い機と冷蔵庫を配送したいのだが,いつ都合がよいかという連絡があった。もう新しいキッチンは完成しているというのに。まったくよくわからない国である。奥が深い国なのかもしれない。

Tonny and Allen

Our house

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


 *自動投稿防止のため上の画像の文字の入力をお願いします。