英語がよくわからない我が家の子供たちが,英国で生活を始めて一番最初に気に入った TV 番組は,BBC が土曜日の午後に再放送しているサンダーバードだった。たぶん40歳以上の男性の中には,約35年前(もっと前かもしれない),NHK でサンダーバードを放送していたことをご記憶の方もいらっしゃるだろう。日本ではペネロープの声を,確か黒柳徹子が吹き替えていたが,原語で聞くと,黒柳徹子の早口とは逆に,非常にゆったりとしゃべっているのに驚いた。いま見ても鑑賞に耐えるストーリーとサンダーバードのロケット・飛行機などの勇姿,特に,出動の要請を受けてから滑り台のようなものでサンダーバード2号に乗り込むプロセスなど,1960年代にこんなプロットを考えた作者とそれを実現した英国のスタッフはすごいなと,改めて感心した。そういえば,同時代にNHK で放送していた「ひょっこりひょうたん島」(これも子供のとき楽しみにしていた番組だった)も,サンダーバードと同じように誰も知らない島の話だったな,などとノスタルジーに浸ってしまった。

サンダーバードは “International Rescue” といい,確か「国際救助隊」と訳されていた。たまたま,読売新聞の一面に,未来のレスキュー隊「レスキューロボットデモンストレーション」が6月24日に川崎で開催され盛況だったと書いてあった(こちらに来てびっくりしたのだが,時差の関係で当日の新聞をケンブリッジの我が家に郵送で配達してもらうことができる。値段は日本の約2倍だが)。レスキューロボットといえば大須賀公一さん(京大)だと思い,彼へサンダーバードのことをメールに書いたら,第1回レスキューロボットコンテストの副賞はサンダーバード基地だったそうである。これを聞いて,私と同世代の人が企画したのだな,と嬉しくなってしまった。

TV を見ていた長男が,サンダーバードのおもちゃを欲しいと言い出した。ケンブリッジにはトイザラスのような大きなおもちゃ屋がないので,ロンドンのリージェントストリートにある Hamleys というおもちゃ屋に行き,サンダーバードを探した。サンダーバード2号を買ってあげると約束していたのだが,そこにはサンダーバード基地が売られていた。私が子供のとき,サンダーバード基地は高嶺の花だった。お金持ちの友達の家でしか見たことがなかった。その代わり,サンダーバード2号や4号のプラモデルで満足していた。そのサンダーバード基地が目の前にあった。幸いにも昔と違ってそれを買うお金は持っていた。私は迷ったが,数分後,それを買ってしまっていた。長男はとても喜んでいたが,もっと喜んでいたのは私だった。なぜなら40年前の自分にサンダーバード基地をプレゼントできたのだから。