家族4人で10ヶ月間,ケンブリッジに滞在すると決めたとき,海外での生活は初めての経験なので不安材料はたくさんあっ たが,その中でも子供たちの学校について最も心配した。ケンブリッジはロンドンと違って日本人学校がないので,現地小学校に編入しなければいけないから だ。なお,イギリス英語では小学校のことを primary school といい,アメリカ英語では elementary school という。日本にいたときにはイギリス英語とアメリカ英語の違いを気にしたことはなかったが(というか,日本の英語教育はアメリカ英語教育なの で,イギリス英語に触れる機会はあまりなかった),英国に住むと,ちょっとした表現でイギリス英語とアメリカ英語の違いを感じることが多い。

日本では長男は小学校4年生,長女は幼稚園の年長であるが,英国では二人とも小学生になり,長男は Year 5,長女は Reception になる。二人とも,英国滞在の約1年前から,週に1回,英会話スクールに通ったが,ほとんど英語を理解できないに等しい。果たして,学校でやっていけるのだろうか? また,racism (人種差別)の話も聞くが,本当にあるのだろうか?

できれば日本にいるときにケンブリッジの教育委員会とコンタクトをとるべきだったのだが,忙しさにかまけてそうすることはできず,ケンブリッジに到着してから学校を探すことになった。自宅から徒歩30分以内につぎの3つの公立小学校があった。
1. Milton Road primary school (児童数:601名)
2. Park Street primary school (児童数:116名)
3. St. Matthew’s primary school (児童数:366名)

まず,ケンブリッジ大の受け入れ教授の Jan に相談した所,彼は強く1の Milton Road primary school を勧めた。この小学校は全英の小学校のランキング(どんな基準のランキングかよくわからないのだが)で Best 8 に入る素晴らしい学校だそうだ。彼のお嬢さんたちはこの小学校の卒業生で,とてもよいので,ここにするべきだと言った。2 の Park Street primary school もよいが,受け入れ児童数が少ないので,難しいかもしれないとも言われた。直接,小学校を訪問したり,メールを書いたりするとよいと Jan が言うので, Milton Road primary school に2人の子供を編入学させたいというメールを書いた。

すると,小学校からまず教育委員会に連絡するようにという返事が来た。教育委員会にはわれわれのような外国人担当の人がいて,子供たちのパスポート,ビザのコピーと,ケンブリッジで住んでいる家の借用契約書のコピーを送るようにと言われた。それらを送ると,折り返し,ケンブリッジの小学校の入学説明書 “Admission to Primary Schools in 2003/2003: A Guide for Parents to school in Cambridge” が送られてきた。なお,小学校を決めるときに,まず教育委員会に連絡した方がよいか,あるいは小学校に直接コンタクトした方がよいかについて,どちらがよ いとは言えない。小学校に直接出向いたら,その場で入学が決まったという人もいた。何しろ英国はアバウトな国だから。

日本の大学でも,最近「アドミッション・ポリシー (admission policy:入学方針)」 という言葉をよく聞くが,この説明書にはケンブリッジ州の小学校の admission policy がよく書かれていた。さすがに,このような点は英国の方が日本より進んでいるなと感じた。その中に,To Minority Ethnic Parents (少数民族の親へ) という項目があり,ベンガル人,ウルドゥー,中国などともに,日本も少数民族になっていたことはちょっと悲しかったが,これは仕方ないことだろう。

ところで,大学ではなぜ「アドミッション・ポリシー」というカタカナ英語を使うのだろうか? 入学方針といえばよいのに... 一般社会でも,フリーター(無定職あるいは定職途上人)やストーカー(変質者)など,日本語で言ってしまうとかっこ悪い言葉をカタカナで言う ことにより,そのものの本質をぼやかすことがはやっている。独立法人化の準備に忙しい国立大学でも,悪名高い中期目標・計画などの作文では,リテラシー (literacy : 読み書きそろばんの素養),ファカルティー・デベロップメント (faculty development : 大学教員能力開発),インターンシップ (internship : 学外実習),オフィスアワー(ズ) (office hours:質問受付時間),サバティカル (sabbatical : 研究休暇),そして前述のアドミッション・ポリシーなど,カタカナ英語がよく登場す る。このようにしておいた方が,定義があいまいで,読む人によって違った解釈ができるので都合がよいからだろうか。あるいは文科省の人にはカタカナ英語の 方が受けがよいのだろうか,その理由はよくわからないが,私はカタカナ英語が嫌いである。福沢諭吉をはじめとして幕末の日本人たちは,西洋からの外来語を 日本語に翻訳していったが,現代の文化人(もちろん大学人も含まれる)たちはそのような努力をしないのだろうか?

さて,入学説明書によると,我が家の学区 (catchment area というが,これもイギリス英語である)は3の St. Matthew’s primary school であるが,もしも空きがあれば,1や2の小学校に通うこともできると書いてあった。そこで,1,2,3 の順で希望した所,残念なことに1と2 は現在空きがないので,waiting list に載せて待つか,3は空きがあるので,すぐに入学できるとの返事をもらった。St. Matthew’s primary school はケンブリッジではやや下町に当たる所にあり,いろいろな人種の子供が通う学校のようである。しかしながら,評判が悪いという学校でもなかっ た。ケンブリッジ到着直後の4月初旬から小学校を探し始めたが,途中にイースター休暇があったりして,この時点でもう5月になっていた。とにかく慣れない外国で,下手な英語を用いての小学校選びなので,時間がかかった。この件に限らず,英国に着いて最初の1,2ヶ月は,このような生活基盤の立ち上げに明け 暮れていた。

St. Matthew’s primary school は家から歩いて10分ちょっとのところにあったので,家族全員で小学校を見学しに行った。校長には会うことができなかったが,Year 5 と Reception 担当の先生と,外国人担当の先生 (EMAG (Ethnic Minority Achievement Grant) teacher)に会うことができた。一学年50人くらいのこじんまりした学校だった。私は見学しても正直な所,よくわからなかったが,小学校でも “Information for Parents 2002/2003” という小冊子を渡してくれた。これは30ページ足らずのものだったが(といっても英語で書かれているので,すべてを読むにはかなりの時間がかかったが), これもよく書かれていた。この小冊子には“admission policy” がわかりやすい言葉で,しっかりと書かれていた。美辞麗句ばかり並んでいて,本当の所,何が言いたいの? というようなお役所的 (大学的?)なものではな く,非常に実務的なものだった。入学方針とは関係ないが,いじめなど何か問題があったら,担任に連絡してください,担任に問題があったら校長に連絡してく ださい,校長に問題があったら市の教育委員会に連絡してください,と書いてあり,それぞれの電話番号がすべて書かれている点には感心した。

英国に引っ越してきて約1ヶ月間,我が家の子供たちはずっと家にいたので,これ以上待つことはよくないと考え,St. Matthew’s primary school に通うことを決めた。ところが,5月第2週は,5/6 年生の試験週間だったので,結局,子供たちが小学校に通い始めたのは,英国に着いてから 8週間後の5月19日からだった。通い始めて1週間後の5月26日の週は half term (学期の中休み)でまたお休みになったが,6月2日から7月23日の夏学期の終了日まで,二人とも1日も休まず,小学校に通った。下の娘などは完全に小学校を楽しんでいたし,上の子も英語でのコミュニケーションは難しいが,football などのスポーツで友達と遊ぶことができた。日本と同じよう に英国の小学校も3学期制で,学期のことを term (これもイギリス英語)という。秋学期は9月~12月,春学期は1月~4月,そして夏学期は5月~7月であり,それぞれの学期の真ん中あたりに,half term と呼ばれる1週間の休みがある。

なお,ケンブリッジ大学も3学期制(日本の大学は2学期制であるが)で,それぞれの学期は8週で構成される。 10~12月が Michaelmas (聖ミカエル祭) term,1~3月が Lent (受難節) term,そして4~6月が Easter (復活祭) term と呼ばれる。

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