日本の冷夏とは対照的に,今年のヨーロッパは猛暑だった。特に,フランス,ドイツ,スペインはひどく,気温が40度以上になったそうだ。英国でも,これまでの最高気温 37.1度(1990年8月)を上回る 38.1度がロンドン南方のケント州グレーブゼンドで観測された。8月の第1週後半から第2週にかけて特に暑かった。びっくりしたのは,暑さのために鉄道のレールが曲がってしまい,ダイヤに大幅な遅れが生じたことだ。ただでさえ,英国の鉄道では遅れが問題になっているのに,はからずも暑さにも弱いことを露呈してしまった。ケンブリッジの人に聞くと,26度を超えるともう暑くてたまらないそうだ。日本と違って一般家庭にはクーラーは入っておらず,病院などの公共施設でも入っていない所も多いので,暑さがこたえる。なお,英国では基本的に華氏でなく,摂氏で温度を表示してくれるので,日本人のわれわれにはわかりやすい。

この猛暑のためにロンドンの地下鉄は暑くてたまらなかったそうである。われわれは,運良く暑くなるちょっと前の7月30日から8月1日の3日間ロンドンに滞在した。日本から家内の両親が英国を訪ねてきたので,家族全員でロンドン観光をするためであった。この時期,ロンドンは人で溢れていた。特に,リージェントストリートやオックスフォードサーカスなどは,夜11時過ぎの新宿駅のように人がごったがえしていた。一時低迷していた英国の観光業界は徐々に立ち直りつつあり,昨年度の観光客数は前年度と比べて8% 増加したそうだ。歴史建設物であるロンドン塔やセントポール寺院よりも,写真に示したロンドンアイのような新しいアトラクションの人気が上昇しているようである。なお,ロンドンアイは英国航空がミレニアムを記念して2000年に作った大観覧車で,1周するのに35分もかかる。

観光シーズンにロンドンを歩いていると,妙にほっとする。まわりの言葉が英語ではなく,フランス語だったり,スペイン語だったり,イタリア語だったり,中国語だったりするからで,おのぼりさんはわれわれだけでないことを実感するからである。滞在中,不思議と日本人の団体客には出会わなかった。イラク戦争や SARS 騒動の後遺症が続いているのだろうか? 

それにしても,ロンドンは街全体が観光地である。歴史的な建造物がそのままの形で保存されていて,高層ビルがほとんどない。日本と違って地震がない国なのだからいくらでも高いビルを建てることは可能だと思うのだが,ロンドンの中心地にはほとんど高層ビルはない。たぶん,規制されているのだろうが,かたくなに古いものを保存しようとする頑固さが感じられる。ロンドン市内には,ウェストミンスター寺院,ビッグベン,トラファルガー広場,ロンドン塔,タワーブリッジ,セントポール寺院,マダムタッソーなど数多くの観光スポットがあるが,観光スポットでなくても歩いているだけで数々の歴史的建造物に出会うことができる。

ふと,日本の首都東京と英国の首都ロンドンを比べてみた。歴史はともに古い。もちろん東京は江戸時代(1600年くらい)から栄えたのであまり古いとはいえないかもしれない。ロンドンには歴史的建造物がたくさんあるが,外国人観光客が東京に来て何を見るのだろうか? 浅草のほかに何があるのだろうか? たぶん 「はとバスツアー」 に参加すれば,たくさんの名所を案内してくれるのだろうが,私の貧困な知識ではすぐにそれが出てこなかった。おそらく英国人は東京都庁や新宿の高層ビルを見ても感動しないだろう。たぶん東京は観光都市でないのだろう,観光は京都や奈良の関西に任せているのかもしれない。

ヨーロッパのロンドンと極東(Far East) の東京を比較すること自体が,間違いなのかもしれない。しかし,せっかく日本は伝統ある国なのだから,そのよき伝統を外国人観光客に見てもらいたい。また,未来に残る建造物を建てていってもらいたい。20世紀にたくさん建てられたコンクリートの建物は一体いつまで残るのだろうか。東京駅の丸ビルが,新しく生まれ変わって日本人のための観光スポットになっている。「古いものを壊して新しいものを建てる」というのは,これまでのパラダイムであり,持続可能な (sustainable) 社会をめざすのであれば,「古いものを維持して新しくしていく」という考え方にパラダイムシフトしなければいけないのではなかろうか。