神戸大学からみたポートアイランド10月1日から2日間約6時間にわたって神戸大学工学部システム制御研究室で「システム同定の基礎」についてセミナーを開いた。

セミナーの導入部でモデリングについて説明するが,そのとき,モデリング対象とモデルとの関係について「モデルとは,対象の本質的な部分に焦点を当て,特定の形式で表現したもの」という点を強調する。また,対象とモデルの間の差がモデルの不確かさであり,制御系設計を行う際にはそれを考慮することが重要であるというロバスト制御の考えについても簡単に説明する。

 これに関連して,ある人からエルンスト・マッハの「思考経済説」(≒プラグマティズム)を教えてもらった。マッハは超音速気流の研究でも有名であるが,哲学者でもあった。思考経済説のポイントは,つぎの3点に集約される。

  • 事実を思考の中に模写するとき、私達は決して事実をそのまま模写するようなことはなく、私達にとって重要な側面だけを模写する。
  • われわれは模写するときには、いつも抽象化している。
  • (模写と現実の差異)と(模写の複雑度)の和を最小にするのが最も経済的な思考法である。
    •  「模写」という単語を「モデリング」に置き換えると,まさしく「思考経済説」は「制御のためのモデリング」と同じ考えに基づいていることに気づく。さらにウィキペディアで調べてみると,思考経済説はケチの原理(あるいは,オッカムの剃刀)とも呼ばれるそうである。このケチの原理も,制御のためのモデリングで利用される基本的な原理である。