ディビット・オレル著,大田・鍛原・熊谷・松井訳の 明日をどこまで計算できるか?~「予測する科学」の歴史と可能性~ (2010) を読んだ。原著の題名は,Appolo’s Arrow — The Science of Prediction and the Future of Everything で,2007年に出版されている。
 題名にひかれて読んだ。6ページの論文を書くのでも大変なのに,462ページの本を書くパワーに感心してしまう。オレル氏は,非線形システムを専門とする数学者で,最近ではシステム生物学の研究も行っているそうだ。
 物理学的システム,生物学的システム,そして経済学システムを中心に,さまざまな分野における「予測」に関する話題が詳しく記述されている。物理学的システムについては,ギリシア時代のピュタゴラスから,中世ヨーロッパのケプラー,ニュートン,そして20世紀のアインシュタインの時代まで書かれている。
 科学的予想の三大分野である天気の予報,病気の予測,そして景気の予測について,それぞれ物理学的,生物学的,経済学的な見地から詳しく述べられている。また,それらの関係についても考察されている。
 フィードバック,動的というキーワードもしばしば登場し,制御理論についても言及されている。予測を数理モデルに基づいて行うことを基本と考え,その誤差と適用可能性について科学的な立場から議論している。
 足立研でも研究対象としているパン酵母(イースト)のネットワーク,経済学で用いられる一般化自己回帰条件付き分散不均一(GARCH)モデルなど,専門的な用語がたくさん登場する。
 われわれ制御屋は,制御可能(可制御)で観測可能(可観測)な物理的対象を取り扱うことが多いが,天気や病気や経済は,そもそも可制御・可観測なシステムではないだろう。それを数理的なモデルに基づき,スーパーコンピュータの中にシミュレータを作成して,未来を予測しようとするところに,本質的な難しさがある。
 本文中の,「(生物の)ロバストネスとは受け身で耐え忍ぶという意味ではない。人体は感染すると熱を出して体温を上げて戦うが,地球温暖化も熱のようなものと化すかもしれない。」という文章が印象深かった。
 一読の価値がある本である。
 出版社の早川書房と聞くと「ハヤカワミステリー文庫」を思い出してしまうが,遅まきながら最近はこのようなジャンルの本にも力を入れていることを知った。

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