先日,足立研セミナーで講演していただいた廣田幸嗣氏からエッセイが届きました。


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『発明の才,発明の魂』  廣田幸嗣

アメリカは憲法の中で「発明で国を建てる」と明記している。そもそもアメリカ独立宣言の起草者の一人,ベンジャミン・フランクリンも著名な発明家であり,彼がアメリカ合衆国を発明したと言われる。ワシントンなどアメリカ大統領の多くも優れた発明家であった。

「必要は発明の母」(実際はガリバー旅行記のスウィフトの言葉)で知られるエジソンは,market-pull 型の発明品とともに「企業内研究所」を発明した【足立注】。
研究 ⇒ 開発 ⇒ 設計 ⇒ 製造 ⇒ 販売 のいわゆるリニアモデル型技術開発の創始者であった。

しかし 1990 年代になってリニアモデルは行き詰る。いま話題のジョブズ流開発は,「発明は必要の母」と考える product-push 型である。ジョブズが巧妙だったのは再発明と言う手法で,すでにあるミュージックプレイヤ,携帯電話,タブレット端末を,革新的な商品に衣替えし,iPod,iPhone,iPad として市場に出したことである。本来 reinvent は,すでに他人が発明されたことを知らずに考案する無駄な行為を意味していたものが,根底から作り直すと言う積極的な意味で使われるようになっている。

マドンナが往年のヒット曲に大胆な振付を加えて,Reinvent が持つ新鮮な響きをタイトルとした Re-invention Tour を数年前に行ったことは,記憶に新しいところだ。自動車も再発明の対象になっている。Reinventing the Automobile と言う本が2年前に MIT Press から出版されて話題になった。中に書かれている個々の技術内容は決して新しくないが,全体の風景画は学ぶところが多い。タイトルの Reinvent とは,従来の商品とそのマーケットの常識をひっくり返すと言う意味だから,表紙を見て衝撃を受けた。

アメリカでは多くの発明が成され新産業が生み出されてゆく。その力の根源に建国の自助の精神(魂)があることは間違いない。

日本にも多くの優れた発明家がいる。明治時代に屋井先蔵は世界で初めて乾電池の開発に成功し,特許を取得している。屋井は戊辰戦争で敗れた長岡藩で生まれた。米百俵の精神風土の中で育ち,やがて東京の時計店に丁稚奉公する。生涯で数多くの特許を取得しているが,彼の発明の才は自助の精神が開花したものである。アメリカの米魂米才に対比される和魂和才と言えよう。

Reinventing the Automobile の日本語版が,「考えるクルマ」というタイトルで出版された。このタイトルでは再発明すると言うアメリカの自助の精神が反映されず,技術の紹介になっている点が残念である。
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【足立注】 1892年,エジソンの会社とトムソン・ハウストン社が合併して General Electric (GE) 社が創立されたとき,エジソンの研究所は GE の研究所のモデルになった。 大須賀・足立著:システム制御へのアプローチ,pp.118~119,コロナ社 (1999)
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このエッセイは,足立研セミナーで講演していただいた内容の一部を文章化していただいたものです。廣田さん,見事なエッセイのご投稿,ありがとうございました。

最近,スライドを用いたプレゼンが上手な技術者や研究者は増えてきました。それと同時に,それを論文や技術報告書にまとめる作業が苦手な人も増えてきたように思えます。技術的な文章は,論理的な思考ができないと作成できません。スライド発表することがプレゼンの最終形で,それを文書化しない方向に進んでいるとしたら,それは非常に心配なことです。

時代遅れかもしれませんが,毎週行われる足立研究室の中間発表会では,スライドは使わずにレジュメを用いてディスカッションしています。私の講義もスライドではなく,ほとんど板書授業です。廣田さんの講演の中で,ハイテクよりもローテクのほうが長生き(?)するというお話がありましたが,教育もそうではないかと個人的には感じています。【足立記】

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