DSC09660廣田幸嗣氏からエッセイ [6] を送っていただきました。

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 ソニーで商品開発に携わった東京芸術大学の君塚雅憲氏よりテープレコーダの発達史を聞く機会があった。興味深かったのは長い間高いシェアを保てたウォークマンには,特許が1件しかなかったという事実である。知財が高いシェアを守ったのではない。

 一方で DVD では,日本企業が特許の9割を保有し世界規格も日本案が採用されたのに,グローバルシェアは1割前後しかない。天地の差である。これを,アナログ商品とデジタル商品の違いとして説明されることが多いが,アナログでも ASSP (Application Specific Standard Product:特定用途向け標準 IC )が普及していて,簡単に真似できたので説得力が乏しい。

 考えてみれば,録音機能を省いた携帯カセット機を最初に出したのはアイワでありソニーは二番煎じであった。文明装置としての再生専用機では両者に違いはない。しかし,ソニーは歩きながら音楽を楽しむと言う生活文化スタイルと、それに合わせた工業デザインで新商品を提案した。新しい文化の提唱者だったことで,ソニーの神話とブランドが生れたのだと思う。

 四捨五入していえば,文明とは普遍性であり、文化は独自性である。お茶が飲みたいときに、自販機にコインを入れればすぐにお茶のボトルが出てくる。これは、世界共通の文明装置である。茶道でやれば文化である。手間がかかるし,流派もある。モータスポーツのチューンアップはクルマ文化で、メインテナンスフリーはクルマの文明化である。いまのエコカーやオートクルーズの開発競争は,クルマの文明装置化への流れを加速していないか。

 日本の電機メーカは、半導体メモリや液晶テレビの先端技術で世界をリードしながら,文明装置の普遍性がゆえに予想外に簡単に真似され価格競争に敗れた。最近の家電売り場を見ると,照明器具は照度 lux 実現の省エネ競争から、明りの優雅さ luxe の競争へと流れが変わっている。日本の電機産業にとって,家電文化の創造・発信が一つの再生の鍵だろう。さらにグローバル競争が,同質の文明装置の価格競争ではなく,多様な文化の競争になれば消費者の選択の幅が広がり,供給者の棲み分けも可能になろう。