OSU Scott Lab 1宇都宮大学足立研 OB の佐野 久さんからオハイオ通信 [5] が届きました。

佐野さんは宇都宮大学足立研の学位取得第1号で(1996 年に社会人ドクターコースで博士(工学)取得),現在は Honda R&D Americas の Division Director / Chief Engineer として Research のまとめ役をされています。

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アメリカの大学は企業との共同研究を盛んに行う。各大学には政府研究機関の基金と企業からの応募基金を基にしたコンソーシアムが多く存在する。ここオハイオ州の地元大学 The Ohio State University (OSU) も同様である。

私の勤務する Honda R&D Americas (以下 HRA )は OSU との共同研究を奨励している。近さの関係で言うと,宇都宮大学(以下宇大)と本田技術研究所四輪 R&D センター(旧称は栃木研究所:以下 HGT )との関係に近い。HRA は HGT と比べて Research の取組みの歴史が新しいことから,地元 OSU の頭脳を活用して研究を促進させることが目的である。また,企業側にとっては,共同研究を通して人が育つし,優秀な学生を採用することもできるというメリットがある。

第1回のオハイオ通信で触れたが,OSU は州立の総合大学であり,宇都宮大学よりはるかに大きい。北関東以北の国公立大学で例えると,寒さも含めて東北大学または北海道大学といえるであろう。日本との大きな違いは OSU の敷地内を高速道路が走っていることである。インターから大学はすぐである。

OSU の Department of Mechanical and Aerospace Engineering (機械航空宇宙工学科)のコンソーシアムの一つに Smart Vehicle Concepts Center (SVC) がある。OSU が複数のテーマを用意し,各テーマごとに 「この指とまれ」 形式で,興味ある企業がスポンサーとして参加できる。1年に2回,研究成果の報告会があり,参加企業はすべての講演を聴くことができるが,研究テーマの運営に参加できるのはスポンサーとして基金を支払っているテーマに限られる。HRA も SVC の複数のテーマにスポンサー基金を払って参加している。

昨年末,SVC のオーガナイザーを務める先生から,定期報告会の事前に行われる招待講演四枠の一つの中で、ホンダにおけるアクティブノイズコントロール(ANC)技術について講演して欲しい,という依頼が来た。アメリカの大学での講演は初めてであり,ホンダにとっても光栄なことであるから喜んでお受けした。2月13日当日,OSU の指定された場所に来ると,どこかで見た景色である。その建物は5年前にアメリカへ赴任したとき,地元を知るため休日に OSU を訪れて偶然撮影した建物であった(オハイオ通信[1] の写真参照)。自分がまさかこの建物に来て講演することになるとは思わなかった。これも何かの縁であろう。

Scott Laboratory という建物の名称は,Scott 夫妻の寄付金で建てられていることに由来する。OSU の中にはこのように人の名前を冠した建物が多く存在する。いずれも寄付金を出資した方の名前であり,アメリカの資産家は税金で遺産を持っていかれるより,こうして自分の名前を後世に残すことを好むらしい。

私自身は ANC の研究から離れて 10 年になるので,最新の ANC の研究内容は,私の後輩たちが提供してくれた。30分の講演は好評裏に終了。講演の中では,ホンダの ANC の取組みだけでなく,私が宇大足立研時代に学んだ北米の教科書や英語論文も紹介し,大学と企業との共同研究の良さと,大学と企業との距離の近さのメリットも語った。会場には 70 ~ 80 人の聴講者がいた。企業の参加者や OSU の学生が興味を持って聞いてくれて,多くの質問をしてくれたのがうれしい。

終わりに,社内・社外を問わず英語のプレゼンテーションで私が心がけていることがある。それはゆっくり,はっきり話すことである。こうすればジャパニーズイングリッシュでもちゃんと通じる。発音やスピードはどんなにがんばってもネイティブのようにはできないので,これは早々に割り切った。ここに行き着いた理由の一つは, Hillary Clinton さんの話し方のおかげである。Hillary さんの発音はとても明瞭で,しかも話すスピードはゆっくりである。彼女が国務長官であったときは,頻繁にテレビやラジオで彼女のスピーチが流れていた。そうかこれをまねしよう,と決めた。もちろん,Hillary さんの発音はネイティブであるが(苦笑)。

こうして講演できるのも,宇大足立研時代にいろいろ学ばせていただいたおかげである。指導して下さった足立先生に改めて感謝申し上げたい。
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宇都宮大学足立研に佐野さんが社会人ドクターとして入学されたとき,私は34歳で佐野さんは33歳でした。指導などまったくできずに,一緒に勉強させていただきました。 【足立】

OSU Scott lab 2